2016年07月26日

ヴェールを脱いだ高倉なでしこ

W杯チャンピオンまで導いた功労者である佐々木則夫監督から
高倉麻子監督へとバトンが引き渡された新生なでしこジャパン。

その初陣となった先日のアメリカ遠征と今回のスウェーデン遠征の試合から
ヴェールに包まれていた高倉なでしこを少し紐解いてみたいと思います。

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新たになでしこジャパンを率いることとなった高倉監督に期待されているのは
前任の佐々木なでしこが図らずも滞らせてしまった選手の刷新であり血の入れ替えだと思います。

2011年ドイツW杯優勝から翌年のロンドン五輪準優勝を経て
2015年カナダW杯の準優勝に至るまでの間には紆余曲折ありながらも
前任者の率いたなでしこジャパンが達成した事というのは
これまでの日本サッカーの常識では到底辿り着けなかった偉業だったと思います。

しかしながら、チャンピオンになった瞬間に追う立場から追われる立場になり
包囲網を敷かれたなでしこがその立場をキープするためには停滞は許されず、
新たな選手と新たなアイデアによってそれを解決しようと試みたものの
十分な進化を得る事ができずに行き詰る形で終わりの時を迎えてしまいました。

ですから、高倉監督に求められるのは
新たな選手を発掘し起用する事でチームの新陳代謝を促す事であり、
既に下のカテゴリーを率いて結果も出していたことから
その役目を強く期待されての就任だったと思います。

その高倉監督がどのような選手を発掘し選択するのか
またどのような布陣・戦術・戦略を用いるのかが注目されたと思いますが、
初陣となった先日のアメリカ遠征では佐々木なでしこの中心を担ったベテラン勢から
これまで代表招集されていなかったり
招集機会や出場機会の少なかった選手への切り替えを図っています。

スターティングでも選手の約半数となる5人を入れ替えて試合に臨んでいますから
まずは佐々木なでしこの遺産と新戦力の融合とを試みたように思います。

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半分近い選手を入れ替えることによって目指すサッカーが変わる事も想像させますが
チームのコンセプトとなるのは前任者から大きく変わらずにボールの保持にあります。

日本の場合は男子も女子も他国と比較して現状体格で劣る事から
フィジカルコンタクトを得意としておらず球際で十分な強度が発揮されないため
ボールを持って試合を進めたいところがあり
高倉監督に変わったからといっても基本となる部分は変わらないと言えます。

そのためにボールを保持したら大事にして失わない、失ったらすぐに取り戻すといった
ボールの支配に基づいたチーム・オーガナイズがされる事になります。


ボールを大事にするというところでは
後ろから繋ぐ事によって相手ゴール前まで運ぶ姿勢が求められますが、
近年のなでしこはその対策が進んだ結果自陣ゴールに近い位置でのビルドアップにおいて
相手に組織的にプレッシャーをかけられてしまってピンチを招くに至るなど
ボールを運ぶ作業に問題を抱えています。

佐々木なでしこでは縦に早く運ぶ事やロングボールを使う事によって問題の解決を図ろうともしましたが
急いでプレーする事であったりロングボールの機能性を上げられなかった事で
運ぶ作業の質を落としてしまっていたように感じます。

ボールは失いたくないけれども
自陣ゴール近い位置で相手の組織的なプレスの餌食になっては本末転倒であるので、
高倉なでしこではショートパスで運ぶ事に軸足を置きながらも
ロングフィードも使う柔軟性を持ってボールを運ぼうとしていたように思います。

手段ではなく結果に拘る姿勢は現実的だと感じますが、
足元でなくロングフィードでとなると
ハイボールを競ることができてセカンドを拾える有利な状況を作れる選手が必要です。

なでしこの前線で現在最もその仕事を任せられるのが永里優季だと思いますが、
高倉なでしこでは永里をこれまでのトップではなく左サイドで起用していますから
相手のディフェンスの位置を決める攻撃の基準点としての役割を
真ん中から両サイドへと移していると言えます。

永里に代わってワントップに起用されたのは
これまで途中出場で流れを変えるジョーカー的役割を務めた岩渕真奈である事からも、
両サイドに攻撃の基準点を置く事によって
岩渕をワントップの役割から解放する事がその狙いになるかと思います。

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攻撃の基準点としての役割から解放して岩渕に期待する事は
バイタルエリアにおける局地的な数的優位と質的優位の創出です。

ボールコントロールとドリブルに特長のある岩渕を攻撃の基準点から外して中盤に解き放ち、
中盤での数的または質的優位を獲得する事でボールを動かし
前を向かせてプレーさせる事によってゴールを脅かすというのがこのシステムの特徴で、
つまりは、高倉なでしこが初陣となったアメリカ遠征初戦で披露したのは
岩渕を9番の選手に見立てた偽9番システムだったと思います。

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メッシを偽9番に見立てて「ファルソ9」とも言われた
ペップ時代のバルセロナのシステムがそのモデルになるかと思いますが、
高倉なでしこでは運動量を増やすトップ下の千葉園子を影武者として配置する事によって
ファルソ9を強力に補完していたように感じます。


スウェーデン戦では岩渕を招集できない事情もありワントップに増矢理花を起用すると
永里をやはり左サイドに置いて4−2−3−1から4−3−3へと陣形を変えています。

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4−3−3へと変えて両サイドの選手をよりワイドに張らせる事により
スウェーデンのディフェンスラインを横に引き伸ばして
インサイドハーフの中里や阪口がランニングするためのスペースを作り、
増矢自身にもスペースを与えるという事がひとつ狙いとしてあったと思います。

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増矢と岩渕では有している特長が異なるので、布陣を変える事によって
それぞれの能力が発揮されやすい状況を積極的に作り出そうとしたというところで、
2試合を見ての感想としては
信念は信念としてありながらも臨機応変で柔軟な采配を揮ったと感じます。

ただし、スウェーデン戦では両サイドをワイドに張らせた事によって
選手間の距離が遠くなって増矢が孤立する弊害もあったと思います。

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両サイドの永里と佐々木がワイドに張る事を意識し過ぎていたのが原因だったように感じますが、
インサイドハーフの中里に増矢のフォローをさせることで
選手間の距離を縮めようとした事自体は必要な判断を下したと言えると思います。

しかしながら、それによりなでしこの中盤の構成が変化し
結果としてギャップとなって後々に影響を与えたのは見逃せないところだと思います。


アメリカ遠征とスウェーデン遠征とで中盤の構成は変えていたものの
ボールの保持を基本コンセプトとしている事から、
守備をする上でのファーストチョイスはハイラインでのハイプレスとなります。

佐々木なでしこ後期においてはボールを失った際
かなり低い位置までリトリートする事も多かったと感じますが、
移動距離を増やさないという意味での体力の温存の面からも
自陣ゴールから遠い位置で守備をするリスク管理の面からも
守備位置を上げる事は必然の修正だったと思います。

ただし、ハイラインにするのであれば
1本のパスで背後の広いスペースを衝かれる事のないよう
相手のボールホルダーに対しては絶えずプレッシャーがかかっている事がマストですし、
手前に入ってくるクサビの縦パスに対しては前に出て潰す事で守備の機能性を上げたい。

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初戦のアメリカ戦では時間が足りていないためか
ハイラインでのハイプレッシャーの基本部分の徹底がされておらず
相手との距離を開けてライン間で相手に時間とスペースを与えてしまうと
背後への飛び出しを許してしまっていましたが、
スウェーデン戦ではセンターバックの熊谷紗希をアンカーに配置した事もあり
前でボールを回収する意識づけは十分に修正がされていたと感じます。

しかし、徹底は図られながらもその機能性は十分とは言えないところもあったように感じます。

4−2−3−1から4−3−3へと変化させたことで
相手のボールホルダーへプレッシャーを与えるためにはワントップの増矢だけでは足りないので
中盤からインサイドハーフの中里が前に出る形でプレスを強めますが、
先程も少し触れたように中里が前に出る事によって
後ろの中盤は阪口と熊谷のドイス・ボランチへと構成が変わります。

スウェーデンはなでしこと同じ4−3−3で試合に臨んでいますから
ウイングにインサイドハーフにサイドバックとサイドには人を集めやすく、
なでしこは中里を前に出す事で4−4−2に近い状況になっているので
中里の空けた左サイドからボールを運ばれてしまうと
サイドハーフとサイドバックだけしか用意できずに数的不利を招いてしまいます。

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中盤におけるボールサイドへのスライドが機能していないため
前半序盤からそうした状況は生じていて、
なでしこは永里と宇津木の左サイドから攻撃に晒されています。

その状況を解決しやすいように阪口と熊谷とで横並びにしたわけですが、
4−2−3−1または4−4−2に近い陣形にしたことで
今度は中盤セントラルで数的不利の状況が生まれてしまっています。

dss20160726007exmyboard.jpg

なでしこは運動量を増やす中里の上下動の動きであったり
途中から交代で入った有町や横山によるプレスバックで
スウェーデンに数的優位の状況を与えていなかったと言えますが、
後半に跳ね返されたボールを急いで繋がれると
中盤セントラルにおける数的不利の状況が露わとなってフリーの選手を作ってしまいます。

その選手からサイドにボールが振られるとサイドでは1対1の状況が生まれており、
なでしこはスクランブル対応となってボールに人を集めてしまうと
その間を縫うようにパスを通されたところから瓦解し
得点力のあるロッタシェリンに決められて失点しています。

男子サッカーでも同じことが言えますが
日本は慌てると冷静な判断ができずに目の前のボールを追ってしまう悪癖があり、
この場面でのなでしこもまた応対した選手に対して中へのルートを切ってサポートするのではなく
ボールホルダーを不要に囲もうとしたためパスを通されてしまっています。

なでしこだけの問題ではなく日本サッカーの病巣のひとつでもあると感じますが
そこを修正していかない事には何回も同じことを繰り返してしまうのではないかと思います。

またそうして自陣に押し込まれた際には反撃に移らなくてはなりませんが、
ワントップには体を張るタイプではない岩渕や増矢を置いているため反撃のための起点が作りにくく
基点を作れずに逆に相手に高い位置でのボール回収を許せばピンチは際限なくループします。

そうした事態に陥る以前の問題として
そもそも高い位置でのボール回収の機能性を上げられているかという点でも議論は必要なところで、
高倉監督の就任は図らずも止めてしまっていた時計の針を再び動かしたという面でポジティブではあるも
当人の眼前にはキャパシティを超える程の問題が山積しているというのが現状のように感じます。






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2015年07月07日

なでしこファイナルで散る 魔の16分を招いた過剰なリスク管理


大会前の低い下馬評を覆して勝ち上がってきたなでしこジャパンでしたが
決勝戦は試合開始早々から失点を重ねてしまって敗戦、準優勝という結果に終わりました。

ここまで来ていただけに連覇を期待しましたが、
勝負する前に全てが終わってしまって勝負をさせてもらえなかったように感じます。

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大きくリードを広げられながらも諦めずに
アメリカから2ゴールを奪ってみせた事は前回のチャンピオンチームらしかったと思いますが、
やはり試合の冒頭の入りのところで喫した4失点は
なでしこにとって重かったと言わざるを得なかったと思います。

ここまで試合を崩すような事のなかったなでしこが、
アメリカとのレベル差が疑われるとは言え
なぜこの決勝で崩れてしまったのかは不可解なところです。

アメリカのセットプレーが
ハイボールだと思っていたらまさかのグラウンダーで虚を突かれたという事もあったでしょうし、
後ろからスピードに乗って入ってきたロイドを岩清水が捕まえきれなかった事もあったと思います。

しかしながら、セットプレーに関しては
体格で見劣るなでしこにとって分が悪いのは今始まった事ではないわけですから、
できる限り相手にセットプレーの機会を与えない対応をすべきであったという事からすれば
立ち上がりの大事な時間帯に立て続けにセットプレーを与えた事自体がどうかとも感じます。

なぜセットプレーを与えてしまったのかを解明すべく、
失点した場面を少し巻き戻して見ていきたいと思います。

まずアメリカの先制点のコーナーキックに至るまでの場面
なでしこの右サイドからアメリカがラピノーを使ってボールを運ぼうとしているのに対して、
正常なマッチアップであればラピノーにはサイドバックの有吉が付くはずで
相手陣内で潰す対応も期待したわけですが、
実際には有吉は下がってスペースを消すとサイドハーフの川澄がラピノーに対応しています。

おそらくはモーガンが利き足からして右から左に流れる特徴があるので
流れやすいサイドの有吉のポジショニングを調整したのではないかと思いますが、
そのために有吉は最終ラインから前に出てこないので、サイドでは川澄に対して
ポジショニングを上げてきたアメリカの左SBクリンゲンベルクとラピノーとで
1対2の数的不利の状況を作られていますから
前でボールを奪う事は難しくなでしこ陣内にボールを運ばれる事になります。

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有吉で蓋をしているために
ボールを運んだアメリカはサイドで詰まりますから反対のサイドに展開させるわけですが、
なでしこはゴール前に人を残して全体をサイドにスライドさせる対応をしていないですから
サイドに引っ張られた選手とゴール前に残る選手との間にスペースができてしまいます。

なでしこはボランチでそのスペースを埋めるわけですが、
ロイドがボールを受けにサイドに流れると宇津木がつられる形でスペースを埋めきれずに
そこにアメリカのボランチのブライアンの侵入を許して
コーナーキックを与えて失点になっています。

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なでしこは大野が戻る形で対応していましたが、
ロイドに下がり気味にプレーされるとインサイドで人数が足りなくなっており、
スペースを埋めるのに苦慮していたように感じます。


そして、2失点目に繋がる場面においては今度は左サイドで、
アメリカのサイドハーフに対してマッチアップする鮫島ではなく
宮間とポジショニングが入れ替わっていた宇津木が対応しています。

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右サイドとは異なり2対1の数的優位は作れていますが、
素早くドリブルで運んできた相手に対して
宇津木が少々遅れ気味に対応し鮫島が縦を切るという対応をしているために
間をパックリと割られそうになってファウルで止めてしまい
セットプレーを与えて失点になっています。

鮫島は十分に対応できる位置にいますので、
宇津木がするべきはドリブルしてくる相手を無理に止める事ではなく中を切って
チャレンジする鮫島のカバーリングをすることだと思いますがそうしなかったわけです。

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失点を重ねたセットプレーの前のボールを運ばれた場面まで巻き戻すと見えてくるのは
そうしたサイドにおけるイレギュラーの対応で、
サイドハーフが過度に負担を負っていたという事です。

そのようにサイドハーフが積極的に守備対応した背景には、
サイドバックの選手には最終ラインに残ってスペースを消す役割と
中央のセンターバックをヘルプする役割が託されているからで、
できるだけ前で解決しようとするリスク管理の意識があったからではないかと思います。

つまりは、決勝戦におけるなでしこの守備は、アメリカの2トップ、
特にモーガンを強く意識した守備になっていたのではないかと感じるところですが、
ボールを運ばれている場面を見れば
モーガンひとりになでしこは最終ラインの4人が動かされてしまっているわけです。
(上から2枚目、4枚目の図を参照)

この日のアメリカはロイドが下がり目でプレーする事が多かったですから
モーガンひとりにそこまでの対応が必要であったかは疑問に感じるところで、
そういう姿勢が受け身に回る原因になってしまったようにも感じます。

その代償として前方では相手に数的優位を作られてしまう、
またチャレンジ&カバーが機能しないといった弊害も生じていたわけですから、
なでしこのリスク管理の仕方は少々度が過ぎており状況判断に欠けていたのではないかと思います。


しかしながら、決勝は残念でしたが
なでしこがここまで勝ち上がってきたくれた事には感謝しなければなりません。

正直言って決勝まで進んでこられるかどうかも半信半疑でしたので
低い評価をしてしまった事は申し訳ない限りです。






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2015年07月03日

苦手なスタイルも克服 なでしこがファイナル進出


試合を勝ち上がりながらコンディションを上げてきた感のあるなでしこジャパンですが、
準決勝の相手はグループステージで同組だった前回大会でなでしこが唯一敗れたイングランド。

高さとパワーとスピードを前面に出したスタイルのサッカーをするイングランドは
その要素が不足しているなでしこにとっては苦手なタイプだったわけですが、
苦戦させられながらも見事に対応して競り勝つ結果となりました。

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スペースを狭められたなでしこ

イングランドの陣形は4−3−3で守備をする際には4−1−4−1となりますが、
守備の特徴としてはワントップによるチェイシングで追い込めないと判断すると
諦めてすぐに後ろに下がってスペースを消すという事、
前後左右をコンパクトに保ってボールサイドに全体をスライドさせるという事、
ボールに対するチャレンジのところで寄せが速くて厳しいという事だと思います。

イングランドのワントップによるチェイシングをかわせば相手は後退を選択するので
なでしこは左右にボールを振ってかわすと後ろではボールを持つのに余裕ができます。

イングランドの敷いている4−1−4−1という布陣は
相手のボランチとトップ下の選手を捕まえやすいために前からボールを奪いやすいものの、
引いた時にはアンカーの選手が孤立しやすく
アンカー周りにスペースができやすい欠点があります。

また、その守備組織全体をスライドさせてボールに寄せる事をしようとすると
反対サイドに大きくスペースを空けてしまいます。

ですから、そのように守備をしてくるイングランド相手になでしこが衝くべきは、
イングランドのアンカー周りにできるスペース並びにボールと反対のサイドです。

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ただし、イングランドは自陣に引くとコンパクトにスペースを消しているわけですから
なでしこが相手陣内でボールを動かすためのスペースと時間は限られますので、
1本のパスで大きなサイドチェンジを用いるか
ワンタッチツータッチの少ないタッチ数でのパスワークでボールを運ぶ事が求められます。

女子の場合はキック力の問題があり
大きなサイドチェンジを使うには精度の問題も相まってリスクもありますから、
なでしこは少ないタッチ数でアンカー周りにクサビのパスを入れたりして
中央を経由しながら空いている反対サイドのスペースへと展開させて
クロスボールまたは仕掛けるという形で攻撃を繰り出していきますが、
そこからなでしこの供給するクロスボールの精度は良くなかったと思います。


ボールを保持する意味を示したベレーザ・コンビネーション

相手が引いて前後をコンパクトにしていてボールを回すためのスペースがないのであれば
空いているスペースへと展開する、ワンタッチツータッチの素早いパス回しを用いるというのは
相手の出方を見れば当たり前の対応だと言えます。

ボールを持って試合を進めるのであれば相手に対応する形だけでなく
相手を自分達の都合のいいように動かすという思考が必要であり、
なでしこにはその思考が備わっていたと思います。

なでしこの先制点のPKに繋がる有吉の飛び出した場面ですが、
リトリートするイングランドに対して後ろから持ち上がれた岩清水は
パスコースが無いと判断するとボールを一度大きく後ろに下げています。

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岩清水がボールを下げた瞬間イングランドはセオリー通りにディフェンスラインを上げますが、
その上げた瞬間にイングランドディフェンスの背後のスペースに
阪口がロングパスを供給するのに合わせて後ろから有吉が飛び出してPKをゲットしています。

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ボールを持って試合を進めるボール・ポゼッション型のチームに求められるのは
ボールを持つという事に意味を持つ事です。

逆にボールを持つ事に意味が無ければ
それはボールを持っているのではなく持たされているに過ぎない事になりますが、
このPKゲットの場面では阪口と有吉によって
岩清水のバックパスが意味あるものになっています。

いくら岩清水に相手を前に引き出す意図があってボールを下げたとしても
タイミングのよい阪口の素早いロングパスと有吉のランニングの判断がなければ
岩清水のバックパスはただの苦し紛れに戻したパスに過ぎなくなります。

しかし、バックパスによって相手のディフェンスラインを上げさせて
その背後に作ったスペースを衝いたとなると、
なでしこはボールを持つ事によって
相手のディフェンスラインをコントロールしているわけですから、
ボールを持つ事に意味がある事になります。

そこには有吉が試合後にコメントしたように
同じチームでプレーするが故の阿吽の呼吸があったのだと思いますが、
ボールを持つ事に意味を与えた素晴らしい連係で
PKながらもゴールが必然にも思える一連のプロセスだったように感じます。


ナチュラルパワーでなでしこを苦しめたイングランド

そのようにボールを持てた時というのは
やろうとした事ができたところもあったとは思いますが、
イングランドは執拗にロングフィードのボールを蹴ってきましたから
なでしこが苦労させられるところがあったのも事実だと思います。

イングランドが後ろからボンボンとロングフィードを蹴って
ボールを縦に運んでくることは予想できていたと言えますが、
分かっていても高さとパワーで見劣るなでしこには対応が難しい。

ロングフィードのボールでなでしこ陣内に運んでくると
身長差は如何ともし難いですから高い位置で収められる、
または先に触られてフリックして後ろのスペースに流されると
なでしこは守備陣形を整えての組織での対応が困難になります。

イングランドはなでしこの弱点を突くように縦に縦にボールを運んできましたし、
そうしてなでしこ陣内にボールを運んでくると球際が厳しいという事がありますから
なでしこが自陣でボールを繋げない場面もあったように思います。

最も高さの被害を被る形となっていたのが
180cmを超えるジル・スコットとマッチアップした左SBの鮫島で、
なでしこが先制した事でイングランドが押し込んでくると
そこのマッチアップからコーナーキックを与えてしまいPK献上に繋がってしまいました。

少々距離があってもゴール前に放り込まれるのでセットプレーは危険だったのですが
そのセットプレーを獲得するところでも高さを使われるわけですから歯痒い感じがしましたし、
大儀見のファウルという主審の判断自体も納得のいくものではなかったですが、
帳尻合わせが時間を残す前半の間だったのは不幸中の幸いでした。


流れを引き戻した岩渕の投入

同点で折り返した後半も序盤は前半同様の展開で試合は進みますが、
徐々にイングランドの攻勢になでしこが押される場面が出てきます。

なでしこが後半になって押し込まれる展開になってしまった原因は
後ろからの押し上げができなくなった事があったと感じます。

イングランドはロングボールを蹴ってなでしこ陣内にボールを運ぶと
後半は前半よりも前でプレッシャーをかけていましたから
なでしこは低い位置でボールを奪った後
大儀見に預けてカウンターの基点を作るなどできずに
後ろからクリアするだけという事が増えていたように思います。

それでもイングランドのプレッシャーをかわしたり
急ぐ事でボールを運ぶ機会はあったわけですが、
攻撃の途中でのミスによってボールを奪われたり
攻め急ぐ事によって精度が伴わない事もありました。

そうしてボールを失う事になると
またイングランドはロングフィードのボールを蹴ってきますから、
もう一度後ろに下がっての対応を求められますという事を繰り返していくと
なでしこは自陣低い位置に押し込められてきます。

イングランドは後半に限った事でなく
前半から隙あらば距離のあるところからでもシュートを打っていましたから、
低い位置でのプレーを余儀なくされた事で
バーを叩くシュートに枠内シュートとなでしこは立て続けにピンチを迎えました。

なでしこにとっては良くない流れになっていたので
佐々木監督は大野に代えて岩渕を投入します。

試合の途中からの投入がもはやデフォになっていますが、
岩渕の投入によってイングランドに傾いていた流れは正常化したと言えます。

左サイドに流れてボールを受けた岩渕は素早く攻めきるのではなく
サイドでタメを作りながら仕掛ける事をしています。

相手からすると早くボールを奪って攻撃に移りたいところですが
岩渕の足元の技術でかわされる危険性がありますから拙速には飛び込めず
前線からヘルプが戻って数的優位の状況になるのを待つ対応になりますので
岩渕がボールを持つと単独で前線で時間を作れるようになります。

そうなると、相手を低い位置まで引かせる事ができますし
味方が上がってくる時間ができる事になりますので、
押し込められていた展開を変えられるというのは
これまでの試合で既に実証済みだったと思います。

そうしてなでしこもイングランドもお互いに移動距離が長くなってなると
体力の低下も加わって全体が間伸びしてくることもあり
終盤はボックスからボックスへという攻守の切り替えの早い展開にもなるわけですが、
最後はGKとDFの間に川澄が出したグラウンダーのパスを
イングランドの選手がオウンゴールして幕切れとなりました。

中に大儀見と岩渕がいる状況で
川澄のパスに対してディフェンダーが触らないという選択肢は無いですから、
絶妙なタイミングで精度の伴ったパスを供給した川澄を褒めるべきだと思います。






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posted by ピーター・ジョソソン at 14:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | なでしこジャパン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする