2016年12月14日

レスターを蘇えらせたラニエリ采配とマン・シティの不安定な最終ライン

ミラクルと言われた昨シーズンから一転して今シーズンは降格圏でもがくレスターシティが
ホームにマンチェスター・シティを迎えた第15節の試合。

レスターはダニー・ドリンクウォーターを累積警告で欠いているのと
期待の岡崎慎司はベンチからスタートとなっている。

マン・シティの方は前節のチェルシー戦で退場処分を受けた影響により
エースのセルヒオ・アグエロとフェルナンジーニョが今節から出場停止処分、
ニコラス・オタメンディが累積で出場停止となっている。

dss20161213001myboard.jpg


序盤のマン・シティに欠けていたサイドチェンジ

堅守からの速攻を武器とするレスターと
ボール保持に基づいたスタイルのマン・シティの対戦となれば
試合がどのように展開されるかは想像に難くない。

コンパクトに保ったブロックを構築するレスターを前にして
ボールを保持したら繋いで前進しようとするマン・シティ、
この構図はレスターのホームで行われた試合でも作り上げられることになる。

ブロックを作ったレスターは選手間の間隔を一定の距離に保ちながら
マン・シティが動かすボールに合わせて全体をスライドさせて対応することで、
クサビとなる縦パスの入ってくる中央コースを小さくして
マン・シティのミスを待つ、ミスを誘うことによりボールを奪う機会を窺う。

ボールを保持するマン・シティとしては
ボールを動かすことでレスターの選手を動かして相手ゴールに向かって前進し、
仮にその途中でボールをロストしてもすぐに奪い返して再攻撃へと繋げられるよう
ボールを動かしながら優位なポジショニングを取っておきたい。

マン・シティはボールを保持して前進させる際には
ベースとなる4ー1ー4ー1の布陣を3ー4−2ー1へと変化させている。

4バックの左サイドのアレクサンダル・コラロフをCBと共に後ろに残すと、
右サイドを務めるパブロ・サバレタの位置を上げて
アンカーのフェルナンド・レゲスと並べることにより形作っている。

マン・シティはボールを動かす始点である後方を3バックにし
レスターの2トップに対して数的優位の状況にすることによりボールを動かしやすくする。

また、レスターの2トップと4ー4のブロックの間にはフェルナンドとサバレタを、
ワイドに開いた左右にケヴィン・デ・ブルイネとヘスス・ナヴァスをそれぞれ配置することで、
コンパクトなレスターの選手間の距離を拡げると、
拡げた選手間でインサイドのダビド・シルバとイルカイ・ギュンドアンにボールを受けさせる。

dss20161213002myboard.jpg

ブロック間でボールを受けようとすることで相手が中を閉じればサイドが空き、
サイドでボールを受けようとすることで相手を外に引き出せばインサイドもしくは相手の背後が空く。

dss20161213003myboard.jpg

4−1−4−1のマン・シティが変化させた3−4−2−1の布陣は
レスターの4ー4ー2の布陣を前にしてボールを動かすには非常に理に適っていると言える。

ただし、4−4−2の10人が一体となるレスターのスライド守備は
それを簡単には許さない。

後方との距離をコンパクトに保ちながらも
精力的にボールへのチェイシングをする2トップのジェイミー・ヴァーディとイスラム・スリマニ。

その後方の4−4のブロックは2トップに連動して中央ルートを封鎖すると、
アウトサイドに全体を素早くスライドさせてマン・シティから時間とスペースを削る。

レスターの素早いスライド守備によって中央とサイドに蓋をされるマン・シティは
ボールを前に運ぶためのルートを失うことになる。

しかし、レスターがボールに対して全体をスライドさせて距離を詰めてくるのであれば、
マン・シティはボールと反対のサイドに広がっているオープンスペースへと運ぶことでチャンスとなるはず。

dss20161213004myboard.jpg

ところが、サイドチェンジするだけの展開力に欠けていたこの試合の序盤のマン・シティは
反対サイドにボールを運ぶのに時間を要した。

タッチラインを背にするサイドアタッカーが仕掛けるためには時間とスペースを必要とするが、
その時間とスペースが削り取られることで仕掛けられないアタッカーは
ボールを失わないために後ろに戻すようになる。

自陣に籠るだけの守備にしたくないレスターは徐々にボールを奪う位置を上げてくるため、
マン・シティはボールを動かすために使っていた後方のスペースも徐々に狭められる。

危険な場所でボールを失いたくないマン・シティが前方にボールを蹴り出すようになると
どちらのものでもないイーブンボールとなるが、これを制したのはレスターだった。

前線からのプレスに伴って全体を押し上げてスペースを圧縮すると
後ろから跳ね返したボールもまたイーブンボールとなるが、
レスターはボールの落下点にいち早く反応することにより守備の整わないマン・シティを制した。

最も速くボールに触れたマレズからボールを受けたスリマニのスルーパスに対して
ジェイミー・ヴァーディが抜け出してゴールを決めたレスターが早々に先制する。

この試合開始から3分と経たない間の先制劇を振り返れば、
レスターの前線から連動するディフェンスとイーブンボールへの反応が
マン・シティのそれと比較して上回っていたと言えるが、
相手をボールに引きつけたところでサイドチェンジが打てず
オープンスペースへとボールを運べなかった点で
マン・シティ自身のパフォーマンスに疑問も感じるところ。


露出する高さ問題

先制されたといっても、まだ試合は始まったばかりである。

残されている時間を考えればマン・シティには反撃する機会は膨大にあったが、
直後に生まれたのはレスターの追加点だった。

この試合を読み解くためのひとつのポイントとして
マン・シティの主力選手の出場停止というファクターがある。

中盤の底を務めるドリンクウォーターを累積による出場停止で欠いていただけのレスターに対して、
マン・シティは前節に退場処分を受けたアグエロとフェルナンジーニョに加えて
オタメンディの3人を累積警告で欠いている。

マン・シティにとってアグエロの不在は、相手に与える脅威の部分で痛手だったが、
オタメンディの不在をバカリ・サニャで補ったことにより
マン・シティはこの試合で高さも失ってしまっている。

レスターは高さを失ったマン・シティのウィークポイントを曝け出すように、
ヴァーディとともにスリマニを起用して高さ勝負を挑んでいる。

身長188cmのジョン・ストーンズと187cmのコラロフを避けて
176cmのサニャと173cmのサバレタの右サイドに
188cmのスリマニと178cmのヴァーディをぶつけてハイボールを供給するため、
両チーム間に横たわる高さのギャップが露わになる。

dss20161213005myboard.jpg

身長差を利用してハイボールを蹴り出すことで敵陣までボールを届けられるレスターは
空中からボールを運ぶために自陣でマン・シティのプレスの餌食にならない。

敵陣深くまでボールを運び左サイドでスローインの機会を得たレスターは
クリスティアン・フクスがゴール前にロングスローを投げ入れる。

その際CBロベルト・フートが躊躇なくゴール前まで上がってくると、
スリマニの対応だけでも苦慮に瀕しているマン・シティにとって
190cmを超えるセンターバックの存在はカオスでしかない。

185cmのフェルナンド・レゲスとサバレタとで挟み込むようにして対応しながらも
空中戦におけるフートを制御することはできずにマン・シティのゴール前へとボールが送られると、
スリマニから下げられたボールをフリーで受けた
アンディ・キングのミドルシュートが鮮やかに決まってレスターは追加点を挙げるに至った。

キングのミドルは素晴らしいものであったが、
ゴール前のスリマニに対して自由を与えたマン・シティの対応は温かったと言わざるを得ず
失点はその罰を受けたと言える。

ただし、オタメンディに代わってサニャを起用する以上は
高さが欠如することは予め分かっていたはずであり、
マン・シティは高さの勝負となるような場面自体を数多く作らせたくなかったのだろうと思う。

ボールを持ったら前進させながら整然とした配置に付くことを実現し
失ってもすぐに回収するサイクルを作り上げてボール支配を高めたかったところだったが、
前提であるそのサイクルの構築に失敗したことにより相手にボールを渡した結果
ウィークポイントである高さの欠如を露呈させたように思う。

この2失点で留めておけば勝敗に対して可能性は残していたと思うが、
マン・シティは前半更に失点を重ねている。

コラロフから出されたクサビとなるパスが主審に当たってコースが変わると、
偶発的に相手にボールが渡ったことにより
マン・シティは敵陣でのボール回収どころかプレッシャーもかけられずに
ボールホルダーとなったフクスに自由を与える。

自陣でフリーとなったフクスからピンポイントで
マン・シティディフェンスの背後へと飛び出したマレズへとロングフィードが送られると、
センターサークル付近で帰陣を試みたコラロフをヴァーディが体を当ててブロックしたため、
マン・シティはその対応に中央からストーンズがサイドに引き出される。

その動きを見たマレズがボールをダイレクトでストーンズの背後へコントロールすると
体をぶつけられてカバーの遅れるコラロフを尻目にヴァーディが走り勝ち、
飛び出してきたGKをかわして無人のゴールに流し込みレスターが3点目を挙げている。

パスを主審に当ててしまったコラロフには想像力が足りていなかったようにも思えるが
それ自体は偶発であり責められるものではないと思う。

しかしながら、レスターはボールを奪ったらすぐに背後に飛び出すと
その背後に飛び出した選手をしっかりとサポートできており、
両チームの攻守の切り替えに対する意識の違いもスコアに反映されたように思う。


実験か?温存か?良くも悪くも型に嵌らなかったペップ采配

レスターに3点目が入って以降のマン・シティはボールを持ったら素早く動かすことに加えて、
精度はあまり高くなかったものの
試合の序盤には乏しかったサイドチェンジを用いるようになって攻撃を活性化させている。

また、その場でボールを回収するサイクルを作り上げることで
ボールポゼッションを更に高めている。

そのパーセンテージは8割にも迫ろうかというものだったものの、
前半の間に反撃の狼煙となるゴールを挙げるまでには至らなかった。

そこで、3点のビハインドを追うこととなったマン・シティは、
選手交代しないまま配置だけを変えて後半に入っている。

左サイドだったデ・ブルイネをインサイドに移すと
インサイドをダビド・シルバを頂点にしたダイヤモンド型の陣形にし、
それに伴って右サイドだったヘスス・ナヴァスを左サイドに持ってきている。

dss20161213006myboard.jpg

その配置換えは、枚数を増やした中央からの崩しを増やす事と同時に
失った直後のボール回収効率を上げる事を期待したのではないかと思う。

サイドから縦に突破してクロスを上げたとしても、
高さのあるレスターのCBを相手にしてのハイボールのクロスは分が悪ければ、
グラウンダーのクロスばかりを狙っていてもコースを読まれる。

それならば、中央に選手を多く配して
選手間の距離を縮めた中でコンビネーションプレーからゴールを伺い、
例えそれが失敗しても中央で作り上げている数的優位を使ってすぐに回収して
再攻撃へと繋げようとしたのではないかと思われる。

ただし、中央から圧力を強める後半のマン・シティに対してレスターも中を閉じるため、
マン・シティがボールを失わないようにキープしながら動かそうとすれば
スペースの空いているサイドにボールを置くようになる。

後半のマン・シティの布陣は
右サイドから移ってきたナヴァスが左サイドで高い位置を取ってボールに絡むために、
明確に高い位置に人を配置していない右サイドがオープンスペースとなりやすい。

dss20161213007myboard.jpg

右SBのサバレタが位置を上げてくることによってオープンスペースを使うと、
マン・シティはそこからアーリー気味のクロスボールを入れたり、
インサイドにポジションを移したデ・ブルイネらがサイドに流れて
ショートパスからのコンビネーションプレーを使って崩し作業に絡んでいく。

それでもボールをゴールに押し込めないマン・シティは
ナヴァスに代えてラヒム・スターリングを投入するとともに
イヘアナチョに代えてヤヤ・トゥーレを投入、
ヤヤ・トゥーレをワントップに据える大胆なコンバートを披露する。

それが機能していたかと言えば機能はしておらず、
後にはプレー精度を欠いていたギュンドアンに代えてノリートを投入する際
ヤヤ・トゥーレの位置を1列下げている。

点差が開いたままだったので
マン・シティには多少の諦めムードや実験的要素も含まれていたようには感じるが、
カメレオンのように変化させた陣形から繰り出される後半の攻撃は猛攻と呼べるものではあったように思う。


「最高のレスター」に導いたラニエリ采配

時折ゴールを脅かすカウンターアタックを披露していたレスターも
後半は確実に自陣に押し込まれる時間を長くする。

そうした状況を打開するためにレスターが最初に切ったカードは
スリマニに代えて岡崎の投入だった。

ボールを持つマン・シティの猛攻に対して、
レスターは疲労から前半のようにはチェイスできずに
コンパクトさを保って相手のミスを待つ状況になっていたことから、
もう一度前線からボールを追い回すことによって
マン・シティからミスを誘える状況を作り出そうとしたものと思われる。

投入された直後からボールを追いかける岡崎によって
マン・シティのボールホルダーから再び時間とスペースを削るようになったレスターは
連動してマン・シティからボールを取り上げるとカウンターを発動させる。

そのカウンター自体は不発に終わるも、
ジョン・ストーンズがGKラウル・ブラボへ出したバックパスを狙っていたヴァーディが
ボールを奪い取って角度のないところから流し込んだシュートがゴールに吸い込まれて
ヴァーディがハットトリックを達成する。

劣勢の中で挙げたこの4点目のゴールは
レスターの勝利を確定させるものであったように思う。

3点のリードをして試合を閉めようとするレスターに対して、
マン・シティはその後コラロフが直接フリーキックを決めると
更に試合終了間際にはノリートもゴールを挙げて追い上げたものの焼け石に水。

4−2で逃げ切ったレスターがマン・シティから堂々と勝利を収める結果となった。

今シーズンここまでのレスターは降格圏まで落ちてしまっている順位が示すように、
チャンピオンズリーグとの兼ね合いの難しさも手伝ってチームは低迷を極めている。

しかしながら、昨シーズンの躍進が決してフロックでは片づけられないことを
この勝利は示したように思う。

ヴァーディの得点力さえ戻れば、
カウンターに関しては今でもヨーロッパでトップクラスだろう。

昨シーズン最高だったレスターを取り戻した要因は
ラニエリの采配とマン・シティの最終ラインの不安定なパフォーマンスにある。

普段着でないマン・シティに対して
スリマニのスタメン起用とヴァーディを組み合わせることで高さとスピードで勝負すると、
前線から追える岡崎を途中投入することで相手に傾いた流れを引き寄せた。

その的確な采配は「最高のレスター」を引き出すのに役立ったように思う。

ボールを持ちたいマン・シティにとってカウンターチームはアンチテーゼでもあり、
マン・シティは試合の序盤からパフォーマンスを上げられなかったことで
カウンターに特化するレスターの餌食となってしまった感はある。

そのような展開にしないためにも、マン・シティの最終ラインには
ボールを保持した際の確かなビルドアップとともに展開力が欲しかったところで、
イギリスの「デイリー・ミラー」紙でも指摘されたように
ヤヤ・トゥーレの最終ラインでの起用については試合を見ていて全く同じ感想を抱いた。

ボールを捌けて高さも有しているヤヤ・トゥレを最終ラインで起用できれば
少なくともこの試合で生じた問題については解決できるように思う。

ただし、レスターのヴァーディを始めとするプレミアリーグのスピードスターを相手に
ヤヤ・トゥレが背後に広がるスペースを管理できるのかと言えば不安が残るところで、
伝えられている確執と共にそこへの不安がグアルディオラから選択肢を奪っているようには感じる。






banner_22.gif

にほんブログ村 サッカーブログ 海外サッカーへ
にほんブログ村
posted by ピーター・ジョソソン at 01:05 | Comment(0) | TrackBack(0) | イングランド プレミアリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック