2016年11月29日

固定するチェルシーを凌駕したトッテナムの連動性 されど勝者はチェルシー

試行錯誤の末に最適解を導き出したように映るチェルシーと
引き分けが多いながらも今シーズン未だ無敗を誇るトッテナム・ホットスパーによる第13節の試合。

好調のチーム同士による対戦は、着実に首位固めをしていきたいチェルシーに対して、
スタンフォード・ブリッジでは26試合勝利がないトッテナムはジンクスを破ることが期待されたところ。

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チェルシーのビルドアップを封じたトッテナムのプレッシング

試合立ち上がりのボールの押し合いが落ち着くと
後方から繋ぎ始めたのはホームのチェルシーだった。

GKティボ・クルトワから
ペナルティボックスを囲むようなポジショニングを取る3人のセンターバックを経由して
ボールを繋ごうとするチェルシー、
それに対して前からプレッシングをかけるトッテナムという構図になった。

右CBのセサル・アスピリクエタを経由させて右からボールを運ぼうとするチェルシーに、
トッテナムはワントップのハリー・ケイン、トップ下のデル・アリで他のCBへのコースを消すと
左SMFソン・フンミンがアスピリクエタへプレッシングをかけた。

相手のビルドアップの人数に合わせたプレッシングは威力を増すと同時に
前に出る人数を増やすことで背後にリスクを抱えるからこそ
後ろは連動してコースを消しておく必要がある。

プレッシングをかけたトッテナムにとってリスクとなるのは
前に出たソン・フンミンの背後である。

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ワイドに開くWBヴィクター・モーゼスとセンターポジションのエンゴロ・カンテ、
そして前線から下がってくるペドロ・ロドリゲス、
ビルドアップするチェルシーのボールホルダーであるアスピリクエタから
近い位置にいてソン・フンミンの背後を取るこの3人へのパスコースを如何にして奪うかが
まずはトッテナムに問われる事になる。

トッテナムはこの試合、ペドロをSBケヴィン・ビムマーが捕まえると
ワイドに開くモーゼスへのマークはCMFのムサ・デンベレに請け負わせているので、
ヴィクター・ワンヤマがカンテに対応できればチェルシーからパスコースを奪える状況となる。

しかし、ワンヤマが中盤の底でスペースを管理しようとするあまり、
低い位置まで下がってボールを受けるカンテとの距離を開けてしまうと
序盤にはカンテに前を向かれてボールを前方に運ばせてしまっている。

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修正してワンヤマが距離を詰めるようになると
前を向けなくなったカンテは真横に近いワイドに開くモーゼスへとパスを出している。

苦し紛れであるかのようにモーゼスへと出させたら
トッテナムはマーカーのデンベレが詰めることで追い込めるはずも、
モーゼスは追い込まれる前にダイレクトで最前線のコスタへとボールを送っている。

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このワイドに開いたサイドからトップへクサビのボールを当てるところから攻撃を展開させるのは
ユヴェントスやイタリア代表を率いていた時代から変わらないアントニオ・コンテのチームの特徴である。

ボールを運ぶルートを予め形式化しておくことによって自陣ゴールに近い危険な位置からボールを出し、
相手のプレスを集めた状況でボールを前に送ることで
前線でボールをキープすることができれば攻撃に移ることを可能にする。

しかしながら、あくまで「前線でキープできれば」の条件が付くものであり、
コンテのチームはこれまでその戦術を機能させるために前線を2トップにしてきた。

2トップにすることによって相手のCBと2対2の数的同数の状況を作りクサビを通りやすくする。

そこに蓋をしたのがコンテがイタリア代表を率いてEURO2016で対戦した際の
ヨアヒム・レーヴ率いるドイツ代表だったという話は脱線になる。

現在率いるチェルシーにおいてコンテは、
エデン・アザールとペドロ・ロドリゲスをシャドーポジションに配置すると
ジエゴ・コスタをワントップに置く布陣に最適解を見出している。

トップが2人ではなく1人となると、
相手の両CBを相手にボールキープを求められるコスタには大きな負担となるし、
コスタに対してはシャドーのアザールもしくはペドロのサポートが必要になってくる。

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しかし、この試合のトッテナムは前からプレッシングをかけると、
背後に広がるスペースを顧みないかのように勇敢にディフェンスラインを上げた。

ヤン・フェルトンゲンがコスタに対して密着マークして自由を奪い
ボールを受けにくい状況を作ってコスタへのクサビのパスを寸断したトッテナムは、
チェルシーからボールを取り上げると素早く前線にボールを供給した。

ボールを前に運べずに下がるチェルシーは中央を締めようとするためにサイドが空き、
サイドを閉じるためにウイングバックが最終ラインまで下がれば5−2の守備陣形となる。

5−2の陣形の「2」の横にスペースができると、
デンベレとワンヤマにボールを戻すことでトッテナムはボールをキープする。

チェルシーはたまらずシャドーのペドロとアザールが下がってくるようになると
5−2だった陣形は5−4となって自陣に押し込められる。

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5−4の2ラインとなって全体の位置が下がるチェルシーディフェンスの前方、
手前側でスペースと時間を得るトッテナムはチェルシー陣内でボールを回し始める。

トッテナムはチェルシーを押し込めているため
ボールを失うことになってもカウンターの起点が絞れていることで
すぐにプレッシャーをかけてボールを回収する。

ボールポゼッションを高めたトッテナムは
その過程でセットプレーを獲得しゴールネットを揺らすも
ケインのオフサイドと判定されゴールは認められなかったが、
その組織的なプレッシングは確実にチェルシーから自由を奪い取っており、
試合の序盤から主導権を握る原動力になっていたと思う。


チェルシーを撤退させたトッテナムの連動するポジショニング

トッテナムのプレッシングによって行く手を阻まれるチェルシーは
ボールの所有者が決まらないイーブンな状況を制することでボールを運び始める。

なかなかボールを前方へと進めることのできない状況を経て
ようやく敵陣へと運んだのであればボールをトッテナム陣内に閉じ込めたいところで、
チェルシーもまた前線からプレスをかけてその場での回収を試みている。

しかしながら、敵陣でのプレスを機能させたトッテナムと違って
チェルシーはリトリートを選択させられる。

チェルシーをリトリートさせたのは、
トッテナムの緻密なポジショニング連動にある。

トッテナムは左SMFソン・フンミンが左サイドのワイドに開いた位置にポジション取りし
チェルシーの右WBモーゼスの出足を鈍らせると、
それに伴ってワントップのケインがWBモーゼスとCBアスピリクエタの間にポジション取りをしている。

そのためモーゼスとアスピリクエタ、
セーフティに守ろうとするダビド・ルイスを足止めする。

その次には右SMFのエリクセンをチェルシーの最終ラインへと突撃させており、
左WBマルコス・アロンソとガリー・ケーヒルの足止めも行っている。

ソン・フンミンとケインとエリクセンの3人によってチェルシーの5バックは釘づけにされると
下がってボールを受けようとするアリに対してのマークが及ばなくなり
アリはフリーの状況でバイタルエリアでボールを受け続けた。

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トッテナムはこのアリを経由することでチェルシーを撤退させる。

ターンして前を向いたアリがドリブルで深く侵入するとチェルシーは更に徹底、
アリからボールを受けたエリクセンがゴールを決めてトッテナムが先制した。

ここのところチェルシーの成績が安定しだした背景には
コンテが起用する選手と陣形選択を見極めて固定させたことが大きな要因となっているように思う。

但し、それが故に試合ごとの変化には乏しいため
対戦する相手からしたらチェルシーの攻守の筋は事前に読みやすくなっていたようにも感じる。

トッテナムの組織的に連動するプレッシングとアリをフリーにした連動するポジショニングは
相手の出方が予め分かっているからこその準備の賜物であったように思うところで、
チェルシーを躍進させた選手と布陣の固定はここでは仇となったように思う。


負のサイクルから抜け出したチェルシー

先制されたチェルシーはビルドアップで手間をかけずにスピードを上げる、
または横幅を広く使ってトッテナムのプレスの集中を避けたり角度をつける、
はたまたロングフィードを用いるなど工夫してボールを運ぶようになる。

しかしながら、ボールを運べるようにはなっても
敵陣でボールを失うとフリーになるアリを制御できずに
クサビとなる縦パスを通されて撤退を余儀なくされる。

自陣に押し込められる5−4の2ラインのチェルシーディフェンスは
カウンター機会を奪われることもありトッテナムにポゼッションする機会を与える。

チェルシーがこの負のサイクルから脱するためには
ネガティブとポジティブ、2つのトランジションを制すことを求められたように思う。

チェルシーが解決を示したのはポジティブ・トランジションの方であり、
寄与したのは攻撃を担う選手の守備への貢献と横幅を使ったボールキープにあったように思う。

5−4の陣形で全体が引くチェルシーは
CMFのカンテとマティッチが最前線で守備対応に当たるも、
前方に広がるスペースの存在と背後のスペース管理の必要性から
ボールを持つトッテナムのCMFデンベレとワンヤマに自由を与える。

しかし、チェルシーは前半終了間際、
その不利な状況にある2対2のセンターポジションに対して
前線から戻ってくるジエゴ・コスタのプレスバックで変化を加えた。

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コスタのプレスバックにより2対2から3対2の状況になったことでボールを奪えたチェルシーは
奪ったボールを細かく繋いでトッテナムのプレスからボールをキープし
ワイドに開くウイングバックへとボールを預けると自陣からのエスケープを果たした。

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敵陣でのプレスと、自陣に下がりながらのカバーに追われて
守備を整え直そうとするトッテナムを尻目に、
チェルシーはボールを左右に動かすことによってボールをキープすると
前半終盤にペドロが決めて同点に追いついた。

4バックのトッテナムは全体が引いてしまうと
ウイングバックが高い位置に上がってくるチェルシーの5トップとの間のギャップを露呈する。

ボールホルダーのマティッチから、ゴールしたペドロへとクサビのパスが入った際にも、
そのギャップを埋めようとしたデンベレがアウトサイドのアロンソへのマークをしようとしている。

1人足りないところを補えば次には中盤に欠損ができることは避けられず、
それだけに引いてはいけなかったけれども引かざるを得なかった。

トッテナムの敗因を探ればそこだろうと思う。


同点ゴールを再現したチェルシー

チェルシーが同点に追いついた一連の流れは
後半早々のチェルシーの逆転ゴールにも再現されている。

その始点のところがコスタのプレスバックでなく
ペドロの中央への絞りによる3対2へと変化しているものの、
2体2の数的状況に変化を加えたことでボールを奪いチェルシーのカウンターが発動している。

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ボールを奪ったチェルシーに対してトッテナムはその場での回収を試みる。

ボールを持ったアザールに対して
マッチアップするカイル・ウォーカーがプレッシャーをかけに前に出てきたため、
チェルシーはその背後にできたスペースへとコスタが流れることによって
ボールとともにエスケープしている。

左サイドの開いた位置からボールを前に運ぼうとするコスタに対して
トッテナムは下がりながらボールサイドにスライドして対応するも、
4バックと5トップのギャップを埋めきれずに逆サイドから上がってきた選手へのマークが及ばず
フリーとなったモーゼスが逆転ゴールを決めている。

4バックのトッテナムにとっては自陣に運ばせるとギャップが厄介にもなることから
敵陣でボールを回収し続けたかったところであるも、
チェルシーはこの試合前半からウォーカーの裏にできるスペースを狙い続けていた。

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ウォーカーは頻繁に攻撃参加をすることに加えて
マーク対象にも食いついてくることから背後にスペースを作りやすく、
チェルシーはトランジションを制した時、またはロングフィードを蹴る際には
必ずといっていいほどウォーカーの背後を衝いている。

逆転されてからのトッテナムはそれを牽制すべく
後半途中からはソン・フンミンを右サイドに移動させている。

前半に左サイドのモーゼスとアスピリクエタを釘付けにした状況を
右サイドでも再現しようとしたように感じるが、
肝心なところでのパスミスもありそれほど効果が上がっているようには見えなかった。

時間の経過とともにトッテナムはハリー・ウィンクス、ジョ−ジ・ゲビン・ヌクドゥ、
終盤にはフィンセント・ヤンセンを投入して2トップにして前掛かりとなる。

しかし、試合開始からのプレッシングはチームに疲労をもたらし、
選手交代は鮮度を上げたものの
前半チェルシーから主導権を奪った連動性は影をひそめた。

それに対するチェルシーはウィリアン、ブラスニフ・イバノビッチ、オスカルと投入すると
割り切って引いてカウンター狙いへとシフトする。

こちらもチャンスは作るもゴールには至らなかったものの
トッテナムにゴールを与えることなく試合を締めて2−1でチェルシーが勝利する結果となった。

組織としての連動性という部分ではトッテナムに分があったように思うし
前半は試合を完全に支配していたといって過言ではない内容だったと思う。

それだけに、チェルシー勝利の結果は
逆にチェルシーの勢いに裏打ちされたものだけでない強さと試合巧者ぶりを際立たせたように感じる。






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posted by ピーター・ジョソソン at 17:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | イングランド プレミアリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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