2016年09月27日

鉈を揮ったモウリーニョ

デイヴィッド・モイーズ就任以来の混迷期にあるマンチェスター・ユナイテッド。

混迷期を抜け出す解決策として投入したルイス・ファン・ハールによって
チームに規律はもたさらされたものの、就任2シーズンで収めたパッとしない成績と
作り上げた「つまらない」スタイルは見ている者を飽きさせたように感じます。

その後任として今シーズン新たに抜擢されたジョゼ・モウリーニョは
ひと言で言ってしまえば「勝つことに特化したリアリスト」。

個の能力に優れた選手をまとめ上げて早期に結果を出してきたのがこれまでのモウリーニョでありますから
ユナイテッドもまたその手腕を期待してチームを託したのだろうと思いますが、
注目を集めたマンチェスター・ダービーでの敗戦を皮切りにユナイテッドは公式戦で3連敗。

ミッドウィークのリーグカップでこそ連敗は止めるも
その存在価値が揺らぎかねない状況が現在だと思います。

短期的な解決に迫られる中でモウリーニョがどう動いてきたか、
レスターシティとの試合を通して見ていきます。

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変化が必要だったユナイテッド

負けの許されないホームでの試合において
モウリーニョが決断したのはキャプテンのウェイン・ルーニー外しでした。

低調なパフォーマンスの続くルーニーに対しては周囲からも外すべきとの声が出ていたわけですが、
選手のリーダーであるキャプテンを外すことがチームに与える影響を考慮すれば
その判断は簡単なものではなかったはずです。

モウリーニョはレスターとの試合後の会見で、
「キャプテンはどこにいてもキャプテンだ」とコメントして
ルーニーへの信頼が変わらないことをアピールしてはいますが、
責任を与えたはずの選手を自らの手でピッチから取り除かねばならなかった
その矛盾を思えば苦しい胸の内が透けて見えます。

しかしながら、ユナイテッドはこの試合を落とす事にでもなれば
それどころではなくなるというのが現実で、
キャプテンがピッチ上に居ようが居まいがレスターから勝利を挙げる必要がありました。

レスターに勝利するためにはコンパクトなブロックを攻略してゴールを奪わければなりませんし
相手の鋭いカウンターを封じなければならない。

そこで、レスターと対戦するに当たってモウリーニョが用意したプランは
左サイド(レスターの右サイド)から攻略の糸口を手繰ること」だったように思います。

そのキーマンとして負傷したルーク・ショーに代わって
ダレイ・ブリントを左サイドバックで起用しています。

これまでのように左サイドバックがショーであるならば
右のSBアントニオ・ヴァレンシアともにスピードが持ち味のタイプであることから、
下手に後ろからは繋がず蹴ってしまうべきだと思います。

現在のユナイテッドが前線にズラタン・イブラヒモビッチ、中盤にポール・ポグバ、
そしてこの試合では出場機会のなかったマルアン・フェライニと
190cmを超える選手を揃えてフィジカル的にも戦える陣容を揃えていることと
レスターの組織的なプレッシングを照らせば、
蹴ってしまった方がマイボールになる確率が高ければリスクも小さい。

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ところが、ショーが負傷してしまったことで代わりにタイプの異なるブリントを、
中盤にはフェライニではなくアンドレ・エレーラを起用してきたことからして想像できるのは、
これまでと異なりショートパスでの運び方を考えていたことです。

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ただし、前線にイブラヒモビッチと中盤にポグバが存在している事からも
ロングボールの道も残しているわけで、つまりのところユナイテッドはこの試合
ショートパスとロングボールを併用する形でボールを運ぶことを考えていたと思います。

ショートパスを繋ぐと見せかけてロングボールを蹴る
その逆にロングボールを蹴ると見せかけてショートパスで繋ぐ。

上下の2つの運ぶルートを組み合わせることによって
レスターのプレスラインを曖昧にして無力化する、
ユナイテッドはそういう意図を持って試合に臨んだように感じます。

ブリントの起用で左サイドからボールを前に進めて
レスターの右SMFリヤド・マレズを前に引き出せれば、
マレズの背後でボールを受けることで右SBダニー・シンプソンが引き出されるため
今度はシンプソンの背後にスペースができる。

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レスターのカバーは横スライドするCBモーガンとなり
モーガンをサイドに引っ張り出した状態で存在するイブラヒモビッチは
クロスボールの供給によってゴール前にカオスを与える。

そのためにもサイドのブリントとマーカス・ラッシュフォードに
中央からフアン・マタであったり逆サイドのジェシー・リンガードを加える事で
ユナイテッドは左サイドに人数をかけて攻略を図ります。

その反対にマレズを引き出せなかったら、レスターのブロックの背後への飛び出しと
逆のベクトルで前線からボールを受けに来ることでレスターディフェンスを撹乱し
ボールをキープし相手を押し込める。

そうすることでユナイテッドの手前側にはスペースができ
片側サイドに人が集まれば逆サイドにスペースができるので、
手前側にできたスペースを使ってフリーとなったポグバがサイドチェンジをすれば
右サイドで前方にスペースのできたヴァレンシアがスピードを活かせる。

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ブリントを起用することで主に左からボールを運んで攻略を図り
ダメならスペースの広がる右サイドへ移動するというのが
この試合におけるユナイテッドの基本的な攻め筋だったと思います。

その攻撃でボールを失ったとしても直後からプレッシャーをかけて
レスターのカウンターの芽を摘んでボールを奪い返して再び攻撃へと移る。

クリス・スモーリングとエリック・バイリーの両CBで
レスターの2トップのジェイミー・ヴァーディとイスラム・スリマニを抑えたら
ブリントでマレズに蓋をして
エレーラを後ろに残すことで数的優位を確保してリスクに対するマネジメントをする。

ユナイテッドのポゼッション自体が丁寧さに欠けたりミスもあり
またカウンターを窺うレスターの切り替えも速いので
必ずしもボールをレスター陣内に閉じ込められたわけではなかったですが、
相手のカウンターから身を守る上でユナイテッドの高い位置での守備は
ある程度の成果を挙げていたように思います。


慢性的に足りないレスターの高さの枚数

攻撃を続けるユナイテッドは流れからゴールを奪うには至らなかったものの
コーナーキックからスモーリングがゴールし先制に成功します。

ユナイテッドとレスターの間にはまず身長差で大きな隔たりがあります。

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レスターは昨シーズンでも
ヘディングは得意だけれども高さがあるわけではない岡崎慎司をゴール前で競らせて失点しているように
センターバックのロベルト・フートとウェズ・モーガン以外高さが無いのがウィークポイントでもあります。

この試合でも両CBにヴァーディを加える形で対応しているわけですが、
ブリントのキックの前にイブラヒモビッチがゴールの外側に逃げて
マークするモーガンを外に引き出しているため
ゴール前におけるレスターの高さはほぼフート頼みの状況になってしまっています。

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高さの足りないレスターの中で高さを担うセンターバックの内
どちらかをゴール前からどかせることができればレスターの城壁は極端に低いものとなります。

それに対してユナイテッドはイブラヒモビッチが外側に逃げてゴール前から消えたとしても
スモーリングやバイリー、ポグバによって高さを失わないため
モーガンとの高さの相殺はデメリットにならない。

高さに関しては質的優位を有していたユナイテッドがアイデアを加えることによって
まさしく頭を使ってゴールを挙げたと言えると思います。

この先制点が布石となって、
ユナイテッドは終盤コーナーキックから3点目、4点目を奪います。

高さへの警戒を強めたレスターを嘲笑うかのように
ユナイテッドは今度は空中戦ではなく足元からボールを繋ぐと、
ニアにマタが飛び出して折り返したボールをラッシュフォードが押し込み3点目を挙げます。

その2分後にもコーナーキックから今度は空中戦でポグバが4点目を挙げたように
コーナーキックに限ってはレスターが対抗する術はなくボロボロと失点を重ねて
ユナイテッドがゲームをコントロールしてしまったのがこの試合だったように思います。


ユナイテッドに隙を与えたレスターの不完全

ユナイテッドの先制点と3点目、4点目はコーナーキックからによるものでしたが
2点目については流れの中から生まれています。

2点目が流れの中から生まれた背景には
この試合で採ったユナイテッドの攻め筋が関係しています。

左サイドから攻め入りダメなら右サイドを使う、
これがこの試合のユナイテッドの基本的な攻め筋だったわけですが、
左サイドから右サイドへとボールが運ばれる事になると
レスターのコンパクトなディフェンスはボールサイドへ寄せたところから
逆サイドへと全体をスライドさせて対応することになります。

しかし、その際にスペースと時間を与えられるヴァレンシアから
アーリー気味にクロスボールが入ってくる可能性を頭に入れるため
レスターのCBはゴール前から動きにくくなります。

CBがゴール前にステイすれば
対応に当たろうとするサイドバックとの間にはスペースができてしまいます。

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そのスペースに対してユナイテッドはポグバが侵入する構えをとるため
レスターはドリンクウォーターが埋めに入るわけですが、
ポグバは侵入しそうでしないためにドリンクウォーターからのマークを外れて
バイタルでフリーとなっている。

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レスターはフリーにするわけにはいかないのでボールを受けようとするポグバにマークを集めれば、
ヴァレンシアがフリーとなってレスターの左サイドは風前の灯となる。

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そのような状況に陥ることを避けようとするレスターは
左SMFのオルブライトンをスライドに組み込まずに左サイドにステイさせる。

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そしてユナイテッドにチェンジサイドされた際に即座にサイド対応できるようにし、
左SBフクスをペナルティエリアの幅から外側に出さずにCBとSBの間にスペースを作らないようにする。

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レスターのそうした対応によってヴァレンシアには時間とスペースが与えられなくなるため
ユナイテッドは右サイドにボールを持ってきても手詰まりになるわけですが、
オルブライトンがヴァレンシアに対して必要以上に注意を払っていることは
ヴァレンシアでオルブライトンをコントロールできる事を意味します。

ヴァレンシアのポジショニングを上げれば
オルブライトンはそのマークのためにポジショニングを下げるので
ユナイテッドは右サイドの低い位置でスペースと時間を得ることができる。

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そうしてオルブライトンをどかして空けたスペースに下りてきたマタが
そこから中央へと侵入してワンタッチでのパス交換から抜け出し
フリーでゴールを決めたのがユナイテッドの2点目となります。

もし2トップの一角が岡崎であればプレスバックしてスペースを埋めてくれるので
ユナイテッドの2点目はなかったかもしれません。

そこは岡崎本人としても、見ている日本人としても評価してほしいところで、
昨シーズンは生じる事の少なかった状況が
今シーズンのレスターには生じてしまっているように感じます。


短期的危機を乗り越えて示したい長期的ビジョン

コーナーキックからゴールを量産し0−4で折り返したハーフタイムに
レスターは中心選手のヴァーディとマレズを代えると
新たにアンディ・キングとデマライ・グレイを加えて布陣を4−1−4−1に変化させています。

ゴールを奪おうとするならばボールを相手から取り上げなくてはならないため
チェイシングの枚数を削る判断はしないはずですが、
逆に1枚削って中盤の枚数を増やして横幅への対応を強化している事からも
この時点でレスターはゴールを奪い返す事ではなくこれ以上失点しない事にシフトさせたように思います。

その中で挙げたグレイのゴールには感嘆の声をあげるところではありますが、
試合を諦めたと言っていいレスターと点差が開いた事でモチベーションを保てないユナイテッドから
これ以上の変化が生まれるようなこともなく、試合は4−1のままユナイテッド勝利で終了します。

ルーニーを外して起用したマタからゴールとアシストが生まれていることからしても
モウリーニョのルーニー外しの決断はひとまず対価を得るに至ったようには感じます。

ただし、序盤にはボールを捌くところでミスしてロストも頻発していたように
ルーニーではなくマタでなくてはならない程のパフォーマンスだったかと言えば
そうとも言い切れなかったように思います。

ルーニーを外した事、マタを起用した事よりも
左サイドにブリントと中盤にエレーラを起用してのゲームプランが確かだった事の方が
ユナイテッドの勝利に与えた影響は大きく、
それにより獲得したセットプレーを高さの優位性とアイデアを用いて制した事が勝因だったと思います。

それだけに眼前の障害物を避けただけに過ぎず、
マタのパフォーマンスの質が下がれば
いずれまた現在と同じ岐路に立つ事になるように感じます。

ルーニーかマタかではない、根本的に問題の解決を図ることが必要に思います。






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posted by ピーター・ジョソソン at 17:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | イングランド プレミアリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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