2016年11月29日

固定するチェルシーを凌駕したトッテナムの連動性 されど勝者はチェルシー

試行錯誤の末に最適解を導き出したように映るチェルシーと
引き分けが多いながらも今シーズン未だ無敗を誇るトッテナム・ホットスパーによる第13節の試合。

好調のチーム同士による対戦は、着実に首位固めをしていきたいチェルシーに対して、
スタンフォード・ブリッジでは26試合勝利がないトッテナムはジンクスを破ることが期待されたところ。

dss20161129001myboard.jpg


チェルシーのビルドアップを封じたトッテナムのプレッシング

試合立ち上がりのボールの押し合いが落ち着くと
後方から繋ぎ始めたのはホームのチェルシーだった。

GKティボ・クルトワから
ペナルティボックスを囲むようなポジショニングを取る3人のセンターバックを経由して
ボールを繋ごうとするチェルシー、
それに対して前からプレッシングをかけるトッテナムという構図になった。

右CBのセサル・アスピリクエタを経由させて右からボールを運ぼうとするチェルシーに、
トッテナムはワントップのハリー・ケイン、トップ下のデル・アリで他のCBへのコースを消すと
左SMFソン・フンミンがアスピリクエタへプレッシングをかけた。

相手のビルドアップの人数に合わせたプレッシングは威力を増すと同時に
前に出る人数を増やすことで背後にリスクを抱えるからこそ
後ろは連動してコースを消しておく必要がある。

プレッシングをかけたトッテナムにとってリスクとなるのは
前に出たソン・フンミンの背後である。

dss20161129002myboard.jpg

ワイドに開くWBヴィクター・モーゼスとセンターポジションのエンゴロ・カンテ、
そして前線から下がってくるペドロ・ロドリゲス、
ビルドアップするチェルシーのボールホルダーであるアスピリクエタから
近い位置にいてソン・フンミンの背後を取るこの3人へのパスコースを如何にして奪うかが
まずはトッテナムに問われる事になる。

トッテナムはこの試合、ペドロをSBケヴィン・ビムマーが捕まえると
ワイドに開くモーゼスへのマークはCMFのムサ・デンベレに請け負わせているので、
ヴィクター・ワンヤマがカンテに対応できればチェルシーからパスコースを奪える状況となる。

しかし、ワンヤマが中盤の底でスペースを管理しようとするあまり、
低い位置まで下がってボールを受けるカンテとの距離を開けてしまうと
序盤にはカンテに前を向かれてボールを前方に運ばせてしまっている。

dss20161129003myboard.jpg

修正してワンヤマが距離を詰めるようになると
前を向けなくなったカンテは真横に近いワイドに開くモーゼスへとパスを出している。

苦し紛れであるかのようにモーゼスへと出させたら
トッテナムはマーカーのデンベレが詰めることで追い込めるはずも、
モーゼスは追い込まれる前にダイレクトで最前線のコスタへとボールを送っている。

dss20161129004myboard.jpg

このワイドに開いたサイドからトップへクサビのボールを当てるところから攻撃を展開させるのは
ユヴェントスやイタリア代表を率いていた時代から変わらないアントニオ・コンテのチームの特徴である。

ボールを運ぶルートを予め形式化しておくことによって自陣ゴールに近い危険な位置からボールを出し、
相手のプレスを集めた状況でボールを前に送ることで
前線でボールをキープすることができれば攻撃に移ることを可能にする。

しかしながら、あくまで「前線でキープできれば」の条件が付くものであり、
コンテのチームはこれまでその戦術を機能させるために前線を2トップにしてきた。

2トップにすることによって相手のCBと2対2の数的同数の状況を作りクサビを通りやすくする。

そこに蓋をしたのがコンテがイタリア代表を率いてEURO2016で対戦した際の
ヨアヒム・レーヴ率いるドイツ代表だったという話は脱線になる。

現在率いるチェルシーにおいてコンテは、
エデン・アザールとペドロ・ロドリゲスをシャドーポジションに配置すると
ジエゴ・コスタをワントップに置く布陣に最適解を見出している。

トップが2人ではなく1人となると、
相手の両CBを相手にボールキープを求められるコスタには大きな負担となるし、
コスタに対してはシャドーのアザールもしくはペドロのサポートが必要になってくる。

dss20161129004exmyboard.jpg

しかし、この試合のトッテナムは前からプレッシングをかけると、
背後に広がるスペースを顧みないかのように勇敢にディフェンスラインを上げた。

ヤン・フェルトンゲンがコスタに対して密着マークして自由を奪い
ボールを受けにくい状況を作ってコスタへのクサビのパスを寸断したトッテナムは、
チェルシーからボールを取り上げると素早く前線にボールを供給した。

ボールを前に運べずに下がるチェルシーは中央を締めようとするためにサイドが空き、
サイドを閉じるためにウイングバックが最終ラインまで下がれば5−2の守備陣形となる。

5−2の陣形の「2」の横にスペースができると、
デンベレとワンヤマにボールを戻すことでトッテナムはボールをキープする。

チェルシーはたまらずシャドーのペドロとアザールが下がってくるようになると
5−2だった陣形は5−4となって自陣に押し込められる。

dss20161129005myboard.jpg

5−4の2ラインとなって全体の位置が下がるチェルシーディフェンスの前方、
手前側でスペースと時間を得るトッテナムはチェルシー陣内でボールを回し始める。

トッテナムはチェルシーを押し込めているため
ボールを失うことになってもカウンターの起点が絞れていることで
すぐにプレッシャーをかけてボールを回収する。

ボールポゼッションを高めたトッテナムは
その過程でセットプレーを獲得しゴールネットを揺らすも
ケインのオフサイドと判定されゴールは認められなかったが、
その組織的なプレッシングは確実にチェルシーから自由を奪い取っており、
試合の序盤から主導権を握る原動力になっていたと思う。


チェルシーを撤退させたトッテナムの連動するポジショニング

トッテナムのプレッシングによって行く手を阻まれるチェルシーは
ボールの所有者が決まらないイーブンな状況を制することでボールを運び始める。

なかなかボールを前方へと進めることのできない状況を経て
ようやく敵陣へと運んだのであればボールをトッテナム陣内に閉じ込めたいところで、
チェルシーもまた前線からプレスをかけてその場での回収を試みている。

しかしながら、敵陣でのプレスを機能させたトッテナムと違って
チェルシーはリトリートを選択させられる。

チェルシーをリトリートさせたのは、
トッテナムの緻密なポジショニング連動にある。

トッテナムは左SMFソン・フンミンが左サイドのワイドに開いた位置にポジション取りし
チェルシーの右WBモーゼスの出足を鈍らせると、
それに伴ってワントップのケインがWBモーゼスとCBアスピリクエタの間にポジション取りをしている。

そのためモーゼスとアスピリクエタ、
セーフティに守ろうとするダビド・ルイスを足止めする。

その次には右SMFのエリクセンをチェルシーの最終ラインへと突撃させており、
左WBマルコス・アロンソとガリー・ケーヒルの足止めも行っている。

ソン・フンミンとケインとエリクセンの3人によってチェルシーの5バックは釘づけにされると
下がってボールを受けようとするアリに対してのマークが及ばなくなり
アリはフリーの状況でバイタルエリアでボールを受け続けた。

dss20161129007myboard.jpg

トッテナムはこのアリを経由することでチェルシーを撤退させる。

ターンして前を向いたアリがドリブルで深く侵入するとチェルシーは更に徹底、
アリからボールを受けたエリクセンがゴールを決めてトッテナムが先制した。

ここのところチェルシーの成績が安定しだした背景には
コンテが起用する選手と陣形選択を見極めて固定させたことが大きな要因となっているように思う。

但し、それが故に試合ごとの変化には乏しいため
対戦する相手からしたらチェルシーの攻守の筋は事前に読みやすくなっていたようにも感じる。

トッテナムの組織的に連動するプレッシングとアリをフリーにした連動するポジショニングは
相手の出方が予め分かっているからこその準備の賜物であったように思うところで、
チェルシーを躍進させた選手と布陣の固定はここでは仇となったように思う。


負のサイクルから抜け出したチェルシー

先制されたチェルシーはビルドアップで手間をかけずにスピードを上げる、
または横幅を広く使ってトッテナムのプレスの集中を避けたり角度をつける、
はたまたロングフィードを用いるなど工夫してボールを運ぶようになる。

しかしながら、ボールを運べるようにはなっても
敵陣でボールを失うとフリーになるアリを制御できずに
クサビとなる縦パスを通されて撤退を余儀なくされる。

自陣に押し込められる5−4の2ラインのチェルシーディフェンスは
カウンター機会を奪われることもありトッテナムにポゼッションする機会を与える。

チェルシーがこの負のサイクルから脱するためには
ネガティブとポジティブ、2つのトランジションを制すことを求められたように思う。

チェルシーが解決を示したのはポジティブ・トランジションの方であり、
寄与したのは攻撃を担う選手の守備への貢献と横幅を使ったボールキープにあったように思う。

5−4の陣形で全体が引くチェルシーは
CMFのカンテとマティッチが最前線で守備対応に当たるも、
前方に広がるスペースの存在と背後のスペース管理の必要性から
ボールを持つトッテナムのCMFデンベレとワンヤマに自由を与える。

しかし、チェルシーは前半終了間際、
その不利な状況にある2対2のセンターポジションに対して
前線から戻ってくるジエゴ・コスタのプレスバックで変化を加えた。

dss20161129008myboard.jpg

コスタのプレスバックにより2対2から3対2の状況になったことでボールを奪えたチェルシーは
奪ったボールを細かく繋いでトッテナムのプレスからボールをキープし
ワイドに開くウイングバックへとボールを預けると自陣からのエスケープを果たした。

dss20161129008exmyboard.jpg

敵陣でのプレスと、自陣に下がりながらのカバーに追われて
守備を整え直そうとするトッテナムを尻目に、
チェルシーはボールを左右に動かすことによってボールをキープすると
前半終盤にペドロが決めて同点に追いついた。

4バックのトッテナムは全体が引いてしまうと
ウイングバックが高い位置に上がってくるチェルシーの5トップとの間のギャップを露呈する。

ボールホルダーのマティッチから、ゴールしたペドロへとクサビのパスが入った際にも、
そのギャップを埋めようとしたデンベレがアウトサイドのアロンソへのマークをしようとしている。

1人足りないところを補えば次には中盤に欠損ができることは避けられず、
それだけに引いてはいけなかったけれども引かざるを得なかった。

トッテナムの敗因を探ればそこだろうと思う。


同点ゴールを再現したチェルシー

チェルシーが同点に追いついた一連の流れは
後半早々のチェルシーの逆転ゴールにも再現されている。

その始点のところがコスタのプレスバックでなく
ペドロの中央への絞りによる3対2へと変化しているものの、
2体2の数的状況に変化を加えたことでボールを奪いチェルシーのカウンターが発動している。

dss20161129009myboard.jpg

ボールを奪ったチェルシーに対してトッテナムはその場での回収を試みる。

ボールを持ったアザールに対して
マッチアップするカイル・ウォーカーがプレッシャーをかけに前に出てきたため、
チェルシーはその背後にできたスペースへとコスタが流れることによって
ボールとともにエスケープしている。

左サイドの開いた位置からボールを前に運ぼうとするコスタに対して
トッテナムは下がりながらボールサイドにスライドして対応するも、
4バックと5トップのギャップを埋めきれずに逆サイドから上がってきた選手へのマークが及ばず
フリーとなったモーゼスが逆転ゴールを決めている。

4バックのトッテナムにとっては自陣に運ばせるとギャップが厄介にもなることから
敵陣でボールを回収し続けたかったところであるも、
チェルシーはこの試合前半からウォーカーの裏にできるスペースを狙い続けていた。

dss20161129009exmyboard.jpg

ウォーカーは頻繁に攻撃参加をすることに加えて
マーク対象にも食いついてくることから背後にスペースを作りやすく、
チェルシーはトランジションを制した時、またはロングフィードを蹴る際には
必ずといっていいほどウォーカーの背後を衝いている。

逆転されてからのトッテナムはそれを牽制すべく
後半途中からはソン・フンミンを右サイドに移動させている。

前半に左サイドのモーゼスとアスピリクエタを釘付けにした状況を
右サイドでも再現しようとしたように感じるが、
肝心なところでのパスミスもありそれほど効果が上がっているようには見えなかった。

時間の経過とともにトッテナムはハリー・ウィンクス、ジョ−ジ・ゲビン・ヌクドゥ、
終盤にはフィンセント・ヤンセンを投入して2トップにして前掛かりとなる。

しかし、試合開始からのプレッシングはチームに疲労をもたらし、
選手交代は鮮度を上げたものの
前半チェルシーから主導権を奪った連動性は影をひそめた。

それに対するチェルシーはウィリアン、ブラスニフ・イバノビッチ、オスカルと投入すると
割り切って引いてカウンター狙いへとシフトする。

こちらもチャンスは作るもゴールには至らなかったものの
トッテナムにゴールを与えることなく試合を締めて2−1でチェルシーが勝利する結果となった。

組織としての連動性という部分ではトッテナムに分があったように思うし
前半は試合を完全に支配していたといって過言ではない内容だったと思う。

それだけに、チェルシー勝利の結果は
逆にチェルシーの勢いに裏打ちされたものだけでない強さと試合巧者ぶりを際立たせたように感じる。






banner_22.gif

にほんブログ村 サッカーブログ 海外サッカーへ
にほんブログ村
posted by ピーター・ジョソソン at 17:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | イングランド プレミアリーグ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月24日

デア・クラシカーを制したドルトムントの勇敢な姿勢

既に週中にチャンピオンズリーグの試合を消化してしまっているので
最新試合のレビューではなくなってしまいましたが、
先週末に行われたドイツ頂上決戦デア・クラシカーを分析してみようと思います。

日本代表から合流した香川真司はベンチスタートだったものの、
インターナショナルマッチウィークで期間を開けたことにより
ドルトムントは負傷者が戻って戦力が整いつつあるのに対して
バイエルンは逆にインターナショナルマッチで負傷者を増やす対照的な状況となっている。

dss20161122001myboard.jpg


ドルトムントにつけいる隙を与えたバイエルンのリトリート

今シーズン最初のデア・クラシカーは予想通り
試合序盤からめまぐるしく攻守が入れ替わる展開となった。

ボールを持ったチームが前方に運ぼうとすれば
反対にボールを保持していないチームは集団でプレッシングをかける。

激しいプレスの中でボールを運ぶためには、
蹴り出してしまわない限り
味方にパスを通すためにもまずはボールをキープしなければならない。

相手のプレッシャーよりも速くボールを処理しようとすれば
プレースピードを上げる必然性に駆られることから攻守の切り替えは激しくなる。

その切り替えのスピードはドルトムント、バイエルン、ともにトップレベルだったものの、
ディフェンスラインを高い位置に上げて
相手の活動スペースを縮めるプレス戦術を徹底したドルトムントに対して
バイエルンは時折リトリートする姿を見せた。

リトリートは悪ではないが、ペップ・バイエルンでは見られなかった事象であり、
それによりドルトムントに対して自陣への進入を許した事も確かであったように思う。

敵陣へと侵入したドルトムントは攻撃においてボールを失うようなことになっても
すぐに攻守を切り替えることでその場でボールを回収してポゼッションを高めようとする。

ドルトムントの集団でのプレッシングはポゼッションする上での強力なバックボーンとなるが
それだけがポゼッションする状況を作り上げたわけでなく、
この日のドルトムントにはポゼッションする状況を作り上げるだけの緻密な計算があったように思う。

ドルトムントはこの試合、敵陣までボールを運ぶと
ほとんどの機会においてインサイドハーフのアンドレ・シュールレとマリオ・ゲッツェが
バイエルンのSBとCBとの間にできるニアゾーンにランニングをかけている。

ニアゾーンへのランニングは相手の整った守備組織を崩すためのセオリーではあるが、
この日のドルトムントには事前に打ち合わせていたかのように躊躇がない。

ドルトムントはアドリアン・ラモスとピエール・エメリク・オバメヤンの2トップにしているため、
4バックで対応しているバイエルンの
CBマッツ・フメルスとジェローム・ボアテングをゴール前に固定する。

その状態でドルトムントがボールをサイドに置くと、
アウトサイドに引き出される事になるバイエルンのサイドバックと
ゴール前に固定されるバイエルンのセンターバックの間にはニアゾーンができる。

dss20161124002myboard.jpg

ドルトムントは試合開始の早い時間帯から
このニアゾーンへとシュールレとゲッツェを送り込んでおり、
バイエルンは中盤2列目の選手がカバーリングを求められるようになる。

dss20161124003myboard.jpg

中盤の底を務めるシャビ・アロンソは主に2対2のゴール前をプロテクトしているため、
ニアゾーン対応するのはジョシュア・キミヒかチアゴ・アルカンタラである。

キミヒもしくはチアゴがニアゾーンに走り込むシュールレとゲッツェに対応する事で
バイエルンはドルトムントの攻撃に蓋をする事になるが、
それはバイタルエリアからバイエルンの選手を減らす事も意味する。

バイタルから人を減らしたバイエルンは
ドルトムントの攻撃を跳ね返した後のセカンドボール争いで後手に回る事になる。

dss20161124004myboard.jpg

セカンドボールを拾える可能性を高めたドルトムントは
実際にセカンドを拾って二次攻撃へと繋げるとゲッツェの折り返しをオバメヤンが押し込んで先制した。

この試合のドルトムントの全体的なボール支配率は40%を切っている。

しかし、先制するまでの序盤の時間帯においてはドルトムントがポゼッションする姿もあり、
それを可能にしたのはバイエルンのリトリートとドルトムントの的確な攻撃プランにあったように思う。


ドルトムントをリトリートさせたバイエルン

しかしながら、バイエルンだけでなく
ドルトムントとてプレス戦術を徹底できなかった。

リードしてからは特にリトリートするところも出てきていたように思う。

リードした事によって
ドルトムント自身が前後のバランスを重視するようになったこともあっただろうが、
引かざるを得ない状況をバイエルンに作られていたこともあったと思う。

ドルトムントが引く選択をするようになったのは
バイエルンのロングフィードへの対応とサイドへの対応にある。

ドルトムントは全体でプレス戦術を機能させるために
ディフェンスラインを非常に高く上げているが、
少しでも隙ができるとバイエルンは背後へロングフィードを出してくる。

そのために前後の距離感覚を意識してバランスを取るようになり、
下がってボールを受けるシャビ・アロンソに付いていかないところが出てきた。

アロンソが下がって数的優位の状況を作るバイエルンのビルドアップは
ドルトムントの2トップのチェイシングを剥がす。

dss20161124005myboard.jpg

それに加えて、バイエルンは序盤から神出鬼没のトーマス・ミュラーを
ドルトムントの左サイドに送りこんでいる。

但し、ミュラーがサイドに流れてきていても
序盤のドルトムントは全体をスライドさせることで対応できていた。

dss20161124005exmyboard.jpg

しかし、ドルトムントがリードしてからは
反対サイドのアラバが積極的に高い位置まで上がってきており、
5バックのドルトムントと言えども反対サイドを脆弱にしてしまうスライド対応は採りづらくなった。

チェイシングを剥がされる2トップと
スライド対応が採れずにリトリートを余儀なくされるウイングバック、
この結果バイエルンのサイドバック、
特に右サイドの低い位置に留まっているフィリップ・ラームへのマークが及ばなくなる。

dss20161124006myboard.jpg

バイエルンはこのラームをポイントとして、ボールを運ぶ、ボールの置き所にする、
また遅れて前線に上がってフィニッシュシーンに絡ませることによってドルトムントゴールを脅かし始める。


ボールは渡しても主導権を渡してはいけない

ドルトムントとしてはバイエルンの攻撃を凌いだらカウンターを仕掛けたい。

体を盾にしてボールをキープするラモスとスピードで相手を撹乱するオバメヤンの2トップ、
この2人を前線に残しておく事でカウンターへと移行する場面はあった。

しかし、バイエルンがドルトムント陣内にボールを運び
プレスを徹底する事によってポゼッションを高めるようになると、
ドルトムントのカウンターは未然に防がれて成就しなくなっていった。

前線で待っていてもボールが届かない、届いても孤立している状況を見かねて、
前半途中からオバメヤンが低い位置まで下がってスペースを埋め始める。

ドルトムントの5−3−2の布陣は「3」の横にスペースを作ることから、
オバメヤンが埋める事によりドルトムントが守備をする上では大きな助けとなる。

dss20161124007myboard.jpg

しかしながら、前線に残すべき選手の位置を下げてしまったことで
ドルトムントは更にカウンターを難しいものにする。

そこで、ハーフタイムを挟んだ後半にドルトムントは
ユリアン・ヴァイグルとともにゲッツェを中央に残すと、
左にシュールレ、右にラモスを配置しオバメヤンの1トップとする5−4−1へと陣形を変える。

中盤の枚数を3枚から4枚にしサイドに人を配置することで2列目のスペースを埋め、
ポジショニングを上げてくるバイエルンのサイドバックへの対応をできるようにするに当たって、
守備の軽いオバメヤンではなく体の張れるラモスの位置を下げた。

但し、引いてしまえばやはり前半同様にカウンターを困難にすることから、
後半のドルトムントは後ろからロングフィードを飛ばすと全体を上げてプレッシングをかけた。

dss20161124008myboard.jpg

そのプレスがバイエルンからミスを誘ったこともあり、
ショートカウンターを仕掛けた後半のドルトムントは再び勢いを取り戻していたように思う。


止まらなかったプレッシング

バイエルンがドルトムントのプレスを回避するためにロングフィードを用いている間は
ほぼドルトムントの思惑通りになっていたように思う。

しかしながら、バイエルンが蹴り出すことを止め後ろから繋いでくるようになると、
5−4−1のドルトムントは1トップに続いて両サイドが前に出てしまうと5−2が露わとなり
「2」の横にボールを置かれてしまうと再びリトリートを余儀なくされる。

ドルトムントが5−4の2ラインで自陣深くまで引くことによって
ボールを持つバイエルンは手前でスペースを得る。

サイドに攻略の糸口を見出したアンチェロッティは
キミヒに代えてダグラス・コスタを右サイドMFとして投入し陣形を4−4−2へと変化させる。

バイエルンの変化の狙いは
前線のレバンドフスキとミュラーを縦関係でなく横並びの2トップにして
ドルトムントからボールを奪いやすくする事とゴール前の迫力を増やす事に加えて、
キミヒを下げてコスタを起用することで左サイドだけでなく右サイドにも明確に人を配置し
サイドからドルトムントディフェンスを攻略することにあったものと思われる。

dss20161124009myboard.jpg

それにより、左サイドからの攻撃に偏っていたバイエルンの攻撃は右サイドも活性化される。

その後のラームからラフィーニャへの交代は
ラームの疲労も考慮して鮮度を上げて推進力を上げようとしたというところだろうか。

ただし、シュールレからエリック・ドゥルムへとスイッチして対応するドルトムントも
全体を上げることを止めずに前からプレスをかけ続けた。

それにより、背後のスペースを使われるところもあったけれども
相手のビルドアップからミスを誘うことにも成功するなど防戦一方になることがなかった。

ミスが散見されるようになったシャビ・アロンソに代えて
バイエルンがレナト・サンチェスを投入したのに対して
ゲッツェに代えてゴンサロ・カストロを投入し蓋をしたドルトムントは、
引かざるを得ない時には自陣ゴール前まで引いて人数をかけた対応をしたものの
ボールを前に運んだらしっかりと全体がラインを上げて前からプレスをかけることを止めなかった。

ドルトムントが1対0という最少スコアでバイエルンから勝利を挙げた要因は
まさにその勇敢なプレスであり、逃げ切ったという内容ではなかったように思う。

相手の攻撃を遅らせてリトリートし、相手の攻撃に備えて人数をかけて対応に当たれば
後ろに人がいなくなる怖さは解消するし、リスク自体を回避できることもあるかもしれない。

しかし、ボールの保持⇒敵陣での予防的守備⇒二次攻撃⇒予防守備⇒三次攻撃⇒…
このサイクルが確立されてきている現代サッカーにおいてはリトリート自体がリスクにもなる。

それが如実に示されたデア・クラシカーであったと思うところで、
ドルトムントの勇敢な姿勢が勝利をもたらしたと言っても過言ではなかったように思う。






banner_22.gif

にほんブログ村 サッカーブログ 海外サッカーへ
にほんブログ村
posted by ピーター・ジョソソン at 14:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | ドイツ ブンデスリーガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月17日

山が動いた日 勝つための新たな組織の構築

W杯アジア最終予選で首位を走るサウジアラビアとの大一番に挑んだハリルジャパン。

コンディションの上がらない主力をスタメンから外す大鉈を振るって臨んだ試合は
ハードワークの対価に見合う勝ち点を与えられたと感じます。

ハリルホジッチ就任以降のベストゲームと言える内容となった試合が
どう展開されたのか見ていこうと思います。

dss20161117001myboard.jpg


カメレオンになりつつある日本

前回のオーストラリア戦での日本は
相手にボールを持たせた上で守備をセットして自陣に待ち構えたのに対して、
今回のサウジアラビアとの試合では前からどんどんプレッシャーをかけています。

ボールのコントロールで器用さに欠けていたオーストラリアとは異なり、
持たせたら厄介であると判断したサウジアラビアに対しては
プレッシャーをかけることによってボール保持のための時間とスペースを削った。

ボールを保持したスタイルのサッカーでなかったオーストラリア戦直後のハリルジャパンに対しては
その消極的姿勢を非難する声もあったかと思いますが、相手があるということも忘れてはいけない。

日本人の特徴からしても、いつでもどんな相手でもボールを保持したサッカーをしたいけれども、
現時点でそこまでの技術やスキルを有していない以上
相手の状況を視野に入れたサッカーが必要になる。

ハリルホジッチが相手を分析した上で戦術を変えられる引き出しの多いタイプの指揮官であることは
アルジェリアを率いて躍進を果たした2014年のW杯で実証済みです。

オーストラリア相手にはリトリート戦術を、サウジアラビアにはプレス戦術を、
相手の特徴に沿ってそれぞれ異なる形の戦術をチームに付与しているところを見る限り
ハリルジャパンは日本サッカー協会が示している目標に向かって歩は進めていると感じます。


前後で異なる守備をしたサウジアラビア

プレス戦術で試合に臨んだ日本は
ここで勝てなければ2位以内が厳しくなる危機感も手伝って球際ではこれまでにない激しさを見せた。

オランダ人監督ファン・マル・ヴァイクに率いられたサウジアラビアはボールを大事にする傾向があるため
プレッシングがかわされてピンチを迎える場面はあったものの
日本は激しい球際と連動するプレスによりボールを奪うと攻守を切り替えて縦に速く攻めた。

サウジアラビアはトランジション時だけでなくセットされた守備においても
前線はプレッシングでありながら最終ラインはリトリートを選択しており
前後で守備の仕方が統一されていなかった。

前後が一体化しない守備はセオリーからは逸脱しており当然その間にはスペースが生まれるため、
日本は清武弘嗣や前線から下がってくる大迫勇也がバイタルエリアでボールを収めるシーンが多かった。

dss20161117002myboard.jpg

サウジアラビアの最終ラインが
清武や大迫のところで潰すのではなくリトリート対応した真意は分からないも、
その理由を考えれば最終ラインに穴(スペース)を作らないことを優先したからではないかと思う。

仮にバイタルで日本の選手にボールを受けさせるようなことになったとしても、
中を閉じることによってボールをサイドに誘導し
日本の攻撃をクロスボールに限定させることができるのであれば
高さがあるわけではないのでオッケー。

dss20161117003myboard.jpg

日本の場合サイドハーフが頻繁に中に入ってくるため、
かえって前に出て潰し損ねて最終ラインに穴を作って
サイドからのダイアゴナルランで穴を衝かれてピンチを拡げられるよりかはマシ、
そう判断されたようにも感じる。

dss20161117004myboard.jpg

確かに日本は前半終了間際のPKを獲得するまでの間
チャンスメイクはすれどゴールは奪えておらず、
前後で異なる戦術を用いてきたサウジアラビアに守備選択の正当性を与えたようにも思う。

しかし、前線のプレスに対して後ろがリトリート対応のサウジアラビアの守備は
自陣に押し込められた日本にエスケープする機会を与えてくれる。

清武や大迫にクサビを打つことによってプレッシャーを回避した日本は
前を向いてエスケープしたら素早く縦に攻めるカウンターを仕掛ける。

またボールを失ったとしても、相手陣内まで運ぶのに伴って全体を押し上げてリスタートにも対応し、
サウジ陣内でプレス戦術を徹底した日本はポゼッションを高めた。

後ろがリトリート対応してしまえば前線からのプレスは機能性を損ねるし、
その反対に前線による単独のプレスはリトリート守備を難しくもするわけで
基本的に前後で統一されない守備を選択することはありえない。

だからこそ、チグハグな守備をするサウジアラビアに対して日本は解答を示す必要があったが、
球際の激しさとは反比例するかのようにフィニッシュシーンでは迫力を欠き
PKに至るまでゴールが叶わなかったのが現実である。


解決したい「大迫周り」

相手が前後で異なる対応をしたことによって
日本はバイタルでボールを受けやすく何度もチャンスを迎えていた。

バイタルでボールを受けてターンまでさせてもらって前を向けたのであれば
あとはゴールまで導線を引くだけだったが実際にはPK判定が助けたのであって
日本は自力で導線を引くことはできなかったことになる。

ゴールから遠ざかる原因となっていたのは
サウジアラビアの守備対応というよりも日本の攻撃の機能性の悪さであり、
そこには大迫を巡る理解の問題が横たわっていたと感じます。

サウジアラビアの最終ラインはリトリートすることによって穴ができにくかったけれども、
センターバックが原口へのカバー対応をすることによってポッカリとスペースを空ける機会もあった。

そうした機会に大迫はスペースを衝かず
手前でボールを受けようとしてチャンスを潰している。

dss20161117005myboard.jpg

また、この日はポストプレーで存在感を見せた大迫ではあるが、
縦に飛び出すタイミングでロングフィードが飛んでこなかったり、
ドリブルで縦に侵入してきた原口とコースを被らせてお互いが窮屈になるようなところがあれば、
久保裕也からのクロスをニアで受けようとしながら希望するグラウンダーのパスが供給されないなど、
フィニッシュシーンにおいては連係不足を露呈させている。

大迫自身の問題だけでなく、周囲の大迫に対する理解も不足していたという印象で
相互理解が足りていないのは明らかだった。

大迫が招集されて起用されるようになってからの日が浅いことからすればそれもやむを得ず、
プレー回数を増やしていくことで本人そして周囲の理解が深まる期待はできます。

今回のパフォーマンスを継続できればおそらくはコンスタントに起用されるようになると思われるので、
既にホットラインとして確立できている清武以外との相互理解を図ることが
大迫にとってもハリルジャパンにとっても今後の課題となってくるように感じます。


チームとゲームをマネジメントしたハリル

清武がPKを決めたことにより1点リードして折り返した日本は
後半頭から久保に代えて本田圭佑を投入する。

本田投入の意図はより守備の安定を図ることと
ボールをキープすることでうまく時計の針を進める事であり、
それを期待したのは後半の日本が前半とは異なるスタイルへと転換したからだと思います。

前半の日本はプレス戦術の徹底を図り相手から時間とスペースを削ったが、
後半になると相手に対するプレッシャーは怠ることなくかけながらも
そのプレス位置を下げてサウジアラビアに時間とスペースを与える対応をしています。

前半激しくプレスした守備を90分続けようとしたら
おそらく終盤ヘロヘロになる予測がついていたことからしても、
適切なチェンジペースを行ったと言えます。

相手にボールを渡した状況でプレッシャーをかけ続け、
ボールを奪えた際にはカウンターを仕掛ける。

縦に速く攻めて追加点を伺いながらも、
逆に相手からのプレッシャーをいなしてボールをキープして時間をかけた攻撃も仕掛ける。

そうしたサッカーをするためには久保よりも本田の方が適任だったという事はあります。

ただし、後半途中からは清武に代えて香川真司を投入する采配を揮ってもいるように、
その交代はチームの機能性ということ以上に
チームの中心だった本田や香川に対してのメッセージ性もあったように思います。

「スタメンから外したからといって不要な選手というわけではない」

ハリルホジッチのそうしたメッセージが込められた起用でもあったように感じます。

長年スタメンで固定されてきた選手がクラブでの出場機会を減らし、
現在の日本代表に停滞が繰り返される未来しか描けない現状からすれば
選手起用の序列の見直しは避けられない。

しかしながら、チームを運営する上で中心選手を外す決断をするのは口で言うほど簡単ではなく
指揮官の対応次第では2度と戦力にならない可能性だってあれば、
断行するハリルホジッチにも既存の完成している品質を落とすかもしれない変革には勇気が必要である。

そうした困難な状況において苦渋の決断をし、
外した選手をベンチのまま終わらせるでもなければ
後半の遅い時間帯でなく早めに投入することでチームに必要な選手であることを認識させた。

それが良い方向に向かったとまでは言い切れないまでも、
本田と香川は盟友である長友とともに3人でチャンスメイクをして
決勝ゴールとなった原口のゴールを御膳立てしてみせた。

序列の見直しを図った最初の試合で波風を立てずにチームを機能させて勝利を掴んだという点で
ハリルホジッチはうまくチームをマネジメントしたと言える。

これからを考えるのであれば、
既に30歳を超えている本田圭佑を中心に据えるべきでないことは誰もが感じていたことだろうと思う。

ただし、完全にフェードアウトさせるのではなく
チームの中心からバックアップする存在へと立場を変えてもらい
新たに勝つための組織作りに着手するのはチームを運営する上では健全な姿であり、
今それがようやく始まったのだと言えます。

そのまま無失点で終えることができていれば
チーム内、そしてゲームとしっかりとマネジメントできたと胸を張って言えたところですが、
最後に1点返されてなおかつ攻められたところは反省点だと思います。

選手は十分に理解していると思いますが、
今後に向けた戒めとして最後に苦言を呈しておきたいと思います。






banner_22.gif

にほんブログ村 サッカーブログ 海外サッカーへ
にほんブログ村
posted by ピーター・ジョソソン at 19:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | ハリルジャパン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする